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プロペシア販売


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世界初経口型毛生え薬プロペシア

プロペシアは前立腺肥大症の薬の副作用から発見された

 プロペシアは、本来の目的とは異なる「副作用」から発見されました。

 プロペシアは、もともとは前立腺肥大症の薬として開発された。前立腺肥大症というのは、男性が年をとるにつれて進行していく病気である。60歳を過ぎると3人に1人にみられるといわれ、高齢化社会を迎えた現在、見過ごすことのできない病気である。

 その主な症状は、尿が出にくくなることである。では、なぜこのような排尿障害が起こるのか。前立腺は精液をつくるのに重要な役割をする器官で、排尿の仕組みとは関係がないが、その中心を尿道が走っているため、肥大すると尿道を圧迫するからである。肥大の原因はホルモン・バランスの失調で、それには、とくに睾丸の精巣でつくられる男性ホルモンであるテストステロンという物質が深く関わっている。

 病状が進行した場合の治療法としては、現在は、尿道に膀胱鏡を入れて肥大した部分を切除するという方法が行われている。昔はおなかを切って手術が行われたことを思えば大きな進歩だが、それでも患部を切除するというのは、あまり嬉しいものではない。そこまでいたる前に、できれば進行を食い止める薬がほしいところだ。

 この病気では、前立腺にあって尿道を収縮する役割をする、アルファ受容体と呼ばれる受容体が増加していることが認められている。この受容体を遮断する物質も探し出されている。アルファ遮断薬と呼ばれるもので、速効性のあるこの薬は患者に大きな恩恵をあたえている。

 しかし、根本的な原因に迫るには、さらに男性ホルモンの作用を防ぐことが必要だ。原因療法としては、男性ホルモンを供給する睾丸をとってしまうのがもっとも効果的だが、その場合、インポテンスは不可避である。また、このホルモンは男らしさを保つ上で大切なホルモンなので、これを除去してしまうと、どうしても。中性化は避けられない。

 それでは、どのようにして男性ホルモンの影響を防いだらよいのだろうか。

 それには、いくつかの方法が考えられる。第1は、前立腺にあるテストステロンの受容体のアンタゴニストを発見して、テストステロンを取り込ませないようにすることである。

 実際、抗男性ホルモンと呼ばれるこうした薬も開発されているが、テストステロンが取り込めなくなると、「もういらないのではないか」という、いねば一種の「負のフィードバック機構」が働いて、テストステロンの製造工場である精巣に、脳の視床下部から指令するホルモンがやってこなくなる。また精巣自身も、そうしたホルモンの製造にプレーキをかけたりするので、睾丸摘出ほどではなくとも性的機能減退の副作用は避けがたい。

 そこで、第2の手段になる。

 実際に男性ホルモンの働きをするのは、実はテストステロンではなく、このホルモンが化学変化を受けてできたジヒドロテストステロン(DHT)という物質である。その男性ホルモンの作用は、テストステロンの10倍もの活性かおる。その変化は例によって酵素によって行われるので、この5アルファ還元酵素と呼ばれる酵素の活性阻害薬を見つければよいわけである。

 この発想から、アメリカのメルク社の研究者たちが発見した薬が、フィナステリドという物質である。この薬は、抗男性ホルモン薬につきまとう精力減退の副作用がないという触れ込みで、「プロスカー」の名で発売された。

 ところが、この薬にも発毛効果があることが分かってきた。「別件」から新薬が発見されたわけである。ただし「プロスカー」の場合は、ミノキシジルのような意外性はない。このことは、ある程度予測されていたことだったからである。

 科学としての医学は、まさに日進月歩である。ミノキシジルの成功に触発され、それまでマイナーだった毛髪の研究に従事する人々の数が急増し、研究も大幅に進んでいった。そのためいろいろなことが分かってきたが、その中でとくに重要なのは、それまで毛髪が育つか抜けるかを決めているのは毛母細胞だと思われていたが、実は毛乳頭が司令塔であることが分かったことである。

 そのため育毛剤メーカーの中には、いままで「毛母細胞を活性化しよう」をキャッチフレーズにしていたのに、いつのまにか「毛乳頭を活性化しよう」に変えてしまったところまで現われたほどである。

 もう一つ重要なことは、毛乳頭には5アルファ還元酵素が多く存在することが分かったことである。男性ホルモンのテストステロンは、毛包でも、この5アルファ還元酵素によって変えられたDHTが働いているのである。

 さらに頭髪が場所によって、毛乳頭の男性ホルモンに対する反応性が違うのは、男性ホルモンの受容体の量や、5アルファ還元酵素の種類が異なるためであることも突き止められた。前立腺にもある、ハゲやすい前頭部の毛乳頭にあるタイプUと呼ばれるほうの5アルファ還元酵素は強く、ハゲにくい後頭部などにあるタイプTと呼ばれるアルファ還元酵素は弱いのだ。フィナステリドはこの中のタイプUの還元酵素を阻害することも分かった。

 アメリカのFDAは薬の認可を行うとき、科学的証明を強く求めてくる。科学は日進月歩なので、その科学的証明も、そのときどきの水準を反映していなければならない。そのためフィナステリドの男性型脱毛に対する臨床試験は、ミノキシジルの時代より進んだ研究の成果を踏まえて行われた。この薬は皮膚を通して吸収はされないので、飲み薬とされた。

 臨床試験は、まずフェーズTと呼ばれる安全性を確かめる試験を行い、次に有効性を確かめるフェーズUの試験のあと、フェーズVと呼ばれる大規模試験に入る。

 フェーズVの対象に選ばれたのは、いままでミノキシジルや抗男性ホルモンなどを使ったことのない18歳から41歳までの、初・中程度に頭頂部の薄毛が進行中のアメリカ内外の1553人であった。

 彼らにはフィナステリドまたはプラセボが、1日に1ミリグラム、1年間にわたって投与され、うち1215人は2年間にわたり観察がつづけられた。試験に参加した患者は3ヵ月ごとの定期検査などで、効果の測定が行われる。

 効果判定には四つの方法が採用された。

 第1はヘアカウントで、薄毛化している部分の定点観測を行うため、中心に刺青に似た小さな標識をつけた1インチ(約2.54センチ)四方大の部分の拡大写真を撮影し、生えている毛の総本数を算出する。

 第2は面接による患者自身の評価。第3では、調査側か、点数によって生えてきたか抜けてきたかを評価する。第4では、試験終了時に、同じ条件で撮影した頭部の写真を3人の専門家が採点する。

 ヘアカウントでは、1年後ではフィナステリドを飲んだ群では平均86本が増え、プラセボがあたえられた群では21本の減少がみられた。したがって、その差は107本ということになるが、2年後にはフィナステリド群がほぼ同じ本数を維持したのに対して、プラセボ群はさらに数を減らし、両者の差は138本に開いた。

 その結果、「現状維持または増加」は、フィナステリド群が83%だったのに対し、プラセボ群は28%だった。専門家の写真判定でも、フィナステリド群では66%が増えたのに対し、プラセボ群で増えたのは7%に過ぎなかった。

 この試験では同時に並行して、ミノキシジルでは効果が薄いとされている前額部の薄い患者にも試験が行われ、同じような結果が証明された。また、プラセボからフィナステリドに替えた群と、フィナステリドからプラセボに替えた群では、途中から両者のグラフが交差した。このことは、ミノキシジル同様、この薬もハゲを完全に治癒する薬ではなく、服用をやめると元に戻ることを意味している。

 ともあれ、これらの試験の結果、この薬は1997年12月22日、FDAによって認可され、翌年1月、「プロペシア」の商品名で発売された。世界で最初の「飲む毛生え薬」の誕生であった。

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